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「アメイジング・グレイス」、感動のイギリス史実

今年洋画では初のパンフレット購入作品

監督:マイケル・アプテッド
出演者
ウィリアムス・ウィルバーフォース:ヨアン・グリフィズ
バーバラ・スプーナー:ロモーラ・ガライ
ウィリアムス・ピット:ベネディクト・カンバーバッチ
チャールズ・フォックス卿:マイケル・ガンボン
ジョン・ニュートン:アルバート・フィニー
トマス・クラークソン:ルーファス・シーウェル
118分、2006年制作
イギリス映画、プレシディオ配給
ジョン・ニュートン作詞の「アメイジング・グレイス」の賛美歌の裏側には、
非人道的な奴隷貿易という制度を廃止させる為に
幾十年にも渡る政治活動を行い
殆どの政治家の反対にあいながらも、
信頼できる仲間と共に奴隷貿易の撤廃をなし遂げた
素晴らしい政治家がいた事を この映画を観て初めて知った。
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ウィリアムス・ウィルバーフォースが その人である。
彼はケンブリッジ大学で小ピットと呼ばれるウィリアムス・ピットと親しく交流し、
彼の支援、援助を受けこの難題に彼のほぼ全生涯をかけて取り組みその道を切り拓いた。

18世紀半終盤、ウィルバーは新進気鋭の弁舌爽やかな政治家として脚光を浴び始めた。
政治家になって直ぐの頃 彼はジョン・ニュートンの説法を聞き、奴隷貿易の事を知った。
そして、ニュートンからこの問題に関する大きな影響を受け、調べこの問題の第一人者となった。
そんなウィルバーだったが、同時に 神に帰依したいという思いも持ち始めていた。

彼のそのような状態を不安視した小ピットは
ウィルバーに奴隷貿易の実態を質そうとするトーマス・クラークソン等を紹介し、
政治の世界に引き戻そうとする。
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彼らの中には実際に奴隷だった者もいた。
胸にヤキゴテで刻まれた焼き印を目のあたりにしたウィルバーは、
あまりの悲惨な現実に
再び政治家としての活動を再開する。
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英国史上最年少 24歳で首相となった小ピットの援護を受けながら、
この問題を議会へ上奏する。


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世論や人道主義的な議員の台頭もあり
多くの支持を取り付けたが、
すんでのところで保守派の反撃を受け、
敗れてしまう。
そもそもヨーロッパ各国は植民地獲得を競っていた時代であり、
獲得した植民地から多くの収穫物を得る為には
多数の労働者が必要であった。
それをアフリカから強制的に奴隷というかたちで獲得していたのだ。
そればかりか、奴隷をアフリカから運んでくる奴隷貿易は
政治家達が経営する会社の大きな収入源になっていた。
東インド会社といえば歴史上名高いが、この会社は奴隷貿易で多大な収益を得ていた会社なのだ。

通ると思っていた法案が通らず失意のウィルバーの精神はすっかり損傷しており、
既にアヘンチンキ無しでは支えられない体になっていた。
活動を通し、奴隷達の悲惨さを知れば知るほど自分を責め、
悪夢にうなされ不眠症になった身体を直す為に、麻薬患者になってしまっていた。
ある意味そうなるまで思い詰めて頑張っていただけに
法案が通らなかった失意も大きかった。

そんな時期にウィルバーは妻になるバーバラを紹介された。
そして、知り合ってわずかな期間で結婚を決める。
ウィルバー38歳、バーバラ20歳。
ロモーラ・ガライのバーバラは 理知的で 気が強そうで 可愛らしい、彼を支える。
その後 アヘンチンキを止める事が出来た理由が良くわかる。
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バーバラは福祉活動に興味があり、ウィルバーととても考えが似ていた。
だから彼の活動を積極的に後押しする。
その後押しもありウィルバーは更に積極的に
奴隷貿易法案を議会に何度も何度も提出するが、そのためことごとく跳ね返された。

このとき既に、ウィルバーは47歳になっていた。
彼の運動の協力者の一人で弁護士のジェームズ・ステファンのアドバイスで
戦術変更にでる。
奴隷貿易を廃止する法案を提出するのではなく
奴隷貿易を行なっている国、特にフランスの支援を禁じる法案を提出したのだ。
実は奴隷貿易の7割方はイギリス船が関与していたのだ、だからこの法案は
実質的には奴隷貿易にイギリスが関与できないことになる。
この法案で利権を得ていた反対派は、なし崩しになり、
とうとう1807年に奴隷貿易法が成立した。

その後もウィルバーは博愛主義的な活動を続けるのだが、
彼がその生涯をかけ 当時誰も手がけれず
不可能と信じられていた奴隷貿易廃止の活動を行なった事により
得たものは大きい。
最愛の妻、信頼できる仲間達。
妻との間には6人の子供をもうけたようだ。
仲間とも その課題が困難であればあるほど結束できる信頼関係を得る事が出来た。
ドン・キホーテのように巨大な敵と戦ったのだが、
彼のように自分だけにしか見えない敵ではなく、
一緒に観る事の出来る友、妻、仲間と戦うことが出来、
ウィルバーの人生はとても幸せな人生だったのではないかと
私には思えてならない。
by asat_abc | 2011-04-09 10:27 | 映画_新作
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